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広島高等裁判所松江支部 昭和49年(ネ)12号 判決

控訴人

飛鳥通二

右訴訟代理人

馬淵分也

被控訴人

荒木正男

佐田寿男

右両名訴訟代理人

直野喜光

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

《前略》

(一) 控訴人代理人は、次のとおり述べた。

(1) 控訴人は、被控訴人荒木の申立に基づいて、昭和四六年九月二七日ごろ米子簡易裁判所昭和三七年(ト)第六号不動産仮処分事件の供託保証金三万円につき同裁判所から一四日以内に権利行使をなすべき旨の同日付催告書の送達を受けた。これによつて同被控訴人は控訴人に対しその申立にかかる本案訴訟および仮処分を不法行為とする本件損害賠償債務につき時効の利益を放棄したものである。

(2) 被控訴人佐田は、鳥取地方裁判所米子支部昭和四三年(ワ)第一〇七号事件につき昭和四五年七月六日の第一三回口頭弁論期日にその訴を取り下げたのであるから、その時効期間は同日から起算すべきであり、また、同被控訴人は時効を援用していないのに、時効の起算日につき原判決が同被控訴人についても被控訴人荒木の場合と同様に考えるべきであるとしたのは、民訴法一八六条に違反している。《後略》

理由

一当裁判所も控訴人の本訴請求は失当と判断する。その理由は、次のとおり変更・付加するほか、原判決の理由記載と同じであるから、ここにこれを引用する。

二《省略》

三前記控訴人の主張(1)について検討するに、〈証拠〉によれば、控訴人主張のとおり権利行使の催告書(米子簡易裁判所昭和四六年(サ)第三九五号)が控訴人に送達されたことが認められる。

しかし、債務者が債務の消滅時効の利益を放棄したといい得るためには、少なくとも債務者においてその時効完成後当該債務の存在を承認して時効の利益を受けない旨の意思表示を債権者に対してなすことを要するものと解すべきところ、仮処分申請人の申立によつてなされる権利行使の催告は、仮処分のために供託した保証金につき、本案訴訟の完結後担保取消決定を得る前提として、仮処分申請人の申立により裁判所が担保権利者に対し、その被担保債権である当該仮処分による損害賠償債権について裁判上確定をはかる手続をとるべき旨を催告するものにすぎず、これをもつて仮処分申請人が本案訴訟および仮処分を不法行為とする損害賠償債務の存在を承認して、同債務の消滅時効の利益を放棄する旨の意思表示をなしたものと解することはできない。したがつて、本件において被控訴人荒木が時効の利益を放棄したという控訴人の主張を採用することはできない。

四次に前記控訴人の主張(2)について考えるに、被控訴人佐田が控訴人主張のとおりその訴を取り下げたことは当事者間に争いがない。

しかし、控訴人は、被控訴人荒木が提起した原判示の所有権移転登記手続請求事件の本案訴訟および仮処分事件による損害について、被控訴人佐田に対しても共同不法行為者として連帯してその賠償をなすべきことを求めているものと解されるところ、同被控訴人の右損害賠償債務の消滅時効期間の起算点は被控訴人荒木の場合と同様昭和四二年六月三日同被控訴人敗訴の判決が確定した時と解すべきこと原判示のとおりであつて、控訴人が主張するような被控訴人佐田が提起した土地代金返還請求事件の訴を取り下げた時と解すべきものではない(もとより右土地代金返還請求事件の訴訟の提起・追行を不法行為とする損害賠償債務の消滅時効期間の起算点については別論であるが、右訴訟の提起・追行についてはこれをもつて不法行為と認め得ないことは、前記のとおり改めた原判示のとおりである。)。

また、被控訴人荒木と同佐田の訴訟代理人は原審および当審を通じて共通であるところ、右代理人において、前記の被控訴人荒木が提起した訴訟および仮処分事件を不法行為とする損害賠償請求に対し、被控訴人佐田についても同荒木と同様消滅時効を援用していることは、原判決の事実摘示および記録上明瞭であつて、原判決の民訴法一八六条違反をいう控訴人の主張も理由がない。《以下、省略》

(干場義秋 加茂紀久男 小川英明)

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